性別・年代を問わず、多くの人に楽しまれているカジュアルファッション。季節ごとにお気に入りのお店をチェックするのはワクワクしますね。その一方、服やバッグなどのファッションアイテムが手元に届くまでの流れや仕組みについては、普段あまり意識することもないためかそれほど知られていないようです。 小売店やネットショップで実際に消費者が商品を手にする前の段階で、大きな役割を果たしているのがアパレル卸です。そもそも卸とはなにか、また、アパレル業界における卸についてご紹介します。
※2021年1月29日 アパレル卸 記事として追記
※2023年3月1日 コロナ前後のアパレル業界について追記
卸とは?歴史と役割
生産者から商品を買い付け、小売業者へ販売するのが卸です。問屋も、一般的には卸とほぼ同じ意味です。 歴史的には、鎌倉時代の「問丸」がその始まりとされています。学校の授業で聞いた記憶がある方も多いのではないでしょうか。問丸は、現代で言うところの運送業、倉庫業、委託販売業を兼ねる役割を果たしていました。 江戸時代には、特定の地域の物産を扱う「国問屋」のほか、米問屋・炭問屋・油問屋などのさまざまな専業問屋が生まれました。 現代でも、商品種類ごとに数多くの問屋・卸売業者が存在します。一般的に、生産者は少ない品種をそれぞれ大量に生産し、小売は多数の品種を少量ずつ販売します。このギャップを埋め、両者の緩衝材となるのが卸です。卸がメーカーと小売の間に入ることで、全体として取引の回数が少なくなり、コストの削減に繋がります。また、卸が一定の在庫をもつことによって流通がより安定的になるという側面も見逃せません。 卸売業の主な機能には、「調達・販売機能」「物流機能」「金融・危険負担機能」「情報提供機能」の4つがあります。このなかで、今後最も期待されるのが情報提供機能と言われています。メーカーに対しては、消費者の関心が高いのはどういった商品かというような開発や生産の参考となる情報を提供し、小売業者に対しては新製品の情報提供や店舗経営のアドバイスをする、といった機能です。 実は、何十年も前から折に触れて「問屋無用論」が囁かれています。インターネットの普及によって卸が姿を消すとも言われましたが、実際には卸売業者や問屋はなくなっていません。これからも、時代の流れに応じて変化しながら、卸は重要な役割を果たしていくことでしょう。
アパレル卸とは
アパレル業界で最も企業数が多いのは、アパレル卸商といわれています。工場などよりも卸が多いということに少し意外な印象もあるかもしれません。 かつては自社で企画・生産した商品を小売業へ販売する「製造卸」が主流でしたが、最近はそれに加えて小売業までを一貫して行うSPA型企業が増えつつあります。SPAとはSpecialty store retailer of Private label Apparelの略で、中間コストを削減し価格競争力を高める一方、在庫のリスクを抱える面もあります。 アパレル業界の産業構造を全体的に見るとき、よく川の流れに例えられます。商品を企画・生産する段階は「川中(かわなか)」、製造された商品を消費者に販売する部分は「川下(かわしも)」と呼ばれます。一般的に、「アパレル産業」と聞くとこの川中~川下の部分を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。 では、「川上(かわかみ)」に当たるのは一体何でしょう?答えは、商品の原材料である生地や糸、ボタンやファスナーなどの副資材を作る会社です。生地の原料である繊維を扱う会社もここに含まれます。 「川上」のなかにもメーカーと問屋があります。「川中」にあたる会社は、例えば、資材メーカーが生産したボタンやファスナーを副資材問屋から買い付け、服の生産に使用します。こうして見てみると、店頭に並ぶ数々の服や靴・バッグも、そこに至るまでに数多くの会社が関わっていることがわかります。
洋服・既製服の普及とアパレル卸
現在、私達が日常的に着る服といえばほとんどの場合市販の洋服です。しかし、かつては和服が普段着だった時代、洋服といえば家庭内で縫うのが一般的だった時代がありました。
日本で洋服が普及したのは第二次大戦後のことです。1949年頃には全国2,000校もの洋裁学校が多くの生徒を集め、一大洋裁ブームとなりました。この時代には既製服はまだ普及しておらず、スカートやワンピースなどは家庭内で作成されることがほとんどでした。
既製服を意味する「アパレル」という言葉が日本で使われ始めたのは1970年代からと言われています。大手アパレルメーカーの株式上場が1960年代半ばから1970年代後半にかかえて進み、日本衣服卸売業の年間販売額は1958年には約2940億円でしたが1976年には約5兆5480億円と大幅に増えました。
アニメ「サザエさん」では、サザエさんは洋服姿ですがフネさんは和服を着ています。波平さんは出勤時はスーツ姿ですが、帰宅すると着物に着替えています。こうした光景は現代では少なくなったので今の子どもたちが不思議に感じるのも無理はありませんが、アパレルが普及していく過程ではごく普通の日常でした。
アパレル産業の発展の背景には、衣料サイズのJIS規格の制定や合成繊維の発展、百貨店による市場創造などが挙げられます。百貨店がコーディネート販売を導入したこともそのひとつで、それまでのスーツ売り場・コート売り場というようなアイテム単位の売り場づくりから、シャツとボトム、カーディガンとワンピースのように複数のアイテムを組み合わせて着こなしを提案する形へシフトしました。これによって、各ブランドがさまざまな種類のアイテムを展開するようになり、他のブランドとは区別された独自のブランド世界を提案するようになっていきました。
この時代は、原糸→織布→縫製→アパレル卸→小売というように、上流から下流へ流れていくアパレルの生産・流通の仕組みが明確でした。店頭で販売する半年前に展示会を開いて受注を取り、生産メーカーに発注して店頭販売時期までに小売店に納品するというサイクルがビジネスの前提となっていました。
アパレル業界のコロナ前とコロナ後の変化と業界変容とは
コロナ前のアパレル業界では、実店舗が主流でしたが、コロナ禍によりオンラインショップへの需要が急激に増加しました。そのため、多くのアパレル企業がオンラインショップの充実や強化に注力しています。また、消費者のニーズも変化し、テレワークの普及によりビジネスカジュアルなどの需要が減少し、代わりにリラックスウェアやアウトドアウェアなど、自宅で過ごす時間が増えたことに合わせたライフスタイルウェアへの需要が増加しています。加えて、消費者の意識も変化し、サステイナブルな商品やブランドへの関心が高まっています。アパレル業界はこれらの変化に対応するために、製品や販売方法、マーケティング戦略を見直し、変革を進めています。
コロナ後のアパレル業界において、小規模店舗や地方アパレル店舗の生き残りについては、状況によって異なると考えられます。一方で、オンラインショップの需要が増え、小規模店舗や地方アパレル店舗でもオンライン販売に力を入れることで生き残る可能性があります。また、地域の特色や個性を活かした商品展開や、地元の消費者とのコミュニケーションを大切にすることで、ファンを獲得し、地域に根付いたビジネスを展開することもできます。しかし、競合が激化する中で、ブランド力や集客力が不可欠になってくるため、自社ブランドの展開や、地域外の顧客獲得に力を入れる必要もあるでしょう。結果的には、地方アパレル店舗や小規模店舗の生き残りには、地域の特色や個性を生かした戦略や、オンライン販売の活用、自社ブランドの展開などが求められると考えられます。
アパレル卸とインターネット
アパレル業界に影響を与えた比較的最近のできごととしては、インターネットの普及があります。総務省のデータによると2018年時点で個人でのインターネット利用率は約80%で、10代から40代までの世代に限っていえば95%以上と非常に高い数字になっています。インターネット利用端末ではパソコンが約50%・スマートフォンが約60%となっており、スマホによるネット利用が伸びてきています。
ネットで物品やサービスを購入することも今や日常的になり、アパレルECの市場規模は2019年時点で1兆9,100億円と2兆円に迫る勢いです。全ての商取引金額に対する電子商取引市場規模を表すEC化率を見てもアパレル市場は13.87%となっており、全産業平均の6.76%を大幅に上回っています。
アパレルのインターネット販売は、自社ECサイトでの販売とアパレルECモールへの出店に大別されます。サイトやアプリの使い勝手の向上、クーポンやメールマガジンの発行、SNS連携・ライブ配信など、さまざまな新しい取り組みによって厳しい世相のなか売上を伸ばしているブランドも少なくありません。
BtoC向けECの伸びに伴い、Web上で効率的に仕入れが行えるBtoB向けECサイトの需要も高まっています。これまでオフライン専門だったアパレル卸がECの立ち上げに取り組む事例も増えており、今まさに大きなパラダイムシフトの渦中にあると言ってよいのではないでしょうか。